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アート作品は、様々な事象が作家に時間的にも空間的にも、世界にあるすべてのものの中のから、いくつか気になったものを選択し、そこから自分の経験やスキルを使ってなにがしかのアウトプットをする。それが「作品」と呼ばれる。とする。すると、その中間のプロセスこそが大事だとか、アウトプットの形を開いておくとか色々細かい差異を競うものも出てくる。それもまた一興。さて、School-in-Progressでは、まず私とmamoruが気になっている何かを参加者と共有することに重点が置かれている。これは、第3のディレクターとも呼べる運営の赤井が、アーティストの着眼点や「リサーチ」の仕方に興味を持ち、それをそのまま伝える学校を作れないかと発想したところから始まっている。

この風変わりな学校では、そこで学ばれる何かに向かってカリキュラムが組まれているわけではない。参加者は一見関連性のない色々な事柄を体験し、見学し、講義を受けもする。

今回は前回から引き続き人形峠のウラン鉱山の見学、風力発電所の見学、フィギュアミュージアムとして生まれ変わり取り壊しを回避した円形校舎、サーフィンとストレッチなど体の使い方とメンテナンスの仕方。フェスの実験としてのバーベキューやパフォーマンスの練習。白川昌生氏を講師として招いてのレクチャーなど。

それらの事柄が結果として作り出すのは、私とmamoruによって切り取られた世界を見るための覗き穴である。そこから見える景色は、私たちと同じである必要は全くない。むしろ、私たちが気づかなかった何かをそこから見つけることが奨励されている。そして、最後の活動「オープン・スクール」は、成果物の発表というよりも、参加者一人一人の1週間ほどの体験の振り返りとしての機能を持つ。

現代において知る、学ぶ、という経験は消費物のように扱われているように思われる、そこでは、映画「マトリクス」の中で普通のサラリーマンだった主人公ネオが、情報を自身にダウンロードした後で「I know Kungfu」といきなり強くなったように、ある価値や知識を自分に取り込むのはなるべく速く、無駄なく行われることが是とされる。

しかし考えてみれば、それら一つ一つの知識を求めるそれぞれの個人とはどのような存在であろうか。彼/彼女の中にある知識と経験の独特な繋がり、または繋がってない空間の総体。

School-in-Progressでは、「知る」という経験の意味や不思議さをそれぞれが体験できる時間になれば良い。我々講師陣やスタッフと参加者全員が持ち寄る知識と経験、ここで新たに知る事柄、その総体は、まるで一つの生き物として新たな知のあり方を示すことができるのではないか。

 

山本高之
School in Progress共同ディレクター