今日は赤井さんが企画された鳥取県立博物館での展示『Our Collections!』と関連企画の映像作品のスクリーニングを見た。昨夜も遅くまで飲んでいたという赤井さんは上映係だから1日中映写室にいらっしゃるとのことだった。赤井さんの体力は本当にすごい。

ことめやから博物館まで徒歩で30分ほどだった。駅から県庁に続くメインストリートは商店街になっていて、冬のあいだの雪よけのために歩道の上には屋根がついている。鳥取市内を歩いて気がついたことは、チェーンのお店が少ないということである。この通りにもチェーン店は見当たらず、ほとんどが個人経営の商店や飲食店だった。メインストリートは山のふもとにある県庁で行き止まりになり、博物館はそこから左に曲がって5分ほど歩いたところ、同じく山のふもとにある。昔この山に鳥取城があったようで、城跡が山の中腹に見えた。

まず企画展の『Our Collections!』を見る。鳥取県が新しく美術館を作る計画があり、それに向けて美術館のコレクションについて考えてみようという企画のようだ。すでに博物館のコレクションとなっている作品群と、今後どのようなコレクションをしていくかオープンに考える場としてセレクトされた作品群から展覧会は構成されている。コレクションの中では、やはり植田正治の有名な砂丘の写真に見入ってしまった。植田正治は、初めて母と鳥取に来たときに大山にある植田正治写真美術館に行って以来のファンである。そのときには彼が有名な写真家だということは知らなくて、ガイドブックに載っていて作品も良さそうだったのでとりあえず行ってみたのだった。植田正治の写真からはシュルレアリズムからの影響を強く感じるけれども、同時に彼独特の厳密な構図の感覚がある。他のシュルレアリズムの作家たちからはそのような厳密さを感じないから、風土から来るものなのか、彼のパーソナリティーから来るものなのか、とにかくそこが面白い点なのだろう。今書いていてふと小津安二郎の構図の厳密さに似ていなくもないかな?と思ったけれど、まったく関係ないような気もする。とにかく植田正治の作品からは積極的に静であることを選び取っていく意志を感じる。動ではなく静の写真だ。彼の写真を見ていると、登場人物たち(多くは彼の家族)が楽しそうにカメラの前でしばらく静止している情景が目に浮かび、イメージそれ自体よりも、登場人物たちの動くまいという意志や共同作業への情熱、に思い当たるのだ。

今後のコレクションについて考えるセクションでは、中ハシ克シゲさんの『ZERO Project』のアーカイブ映像が特に印象的だった。地元ボランティアの人たちと、敗戦が宣言された直後に鳥取から特攻に飛び立っていった戦闘機の実物大模型を作り、完成後に焼却するという作品である。制作の過程で、当時実際に特攻兵であった人たちのお話を聞く機会もあったようで、ボランティアの人たちが飛行機を作り、当時の話を聞き、最終的に飛行機が燃えるのを見届けるというプロセスを経て、どのような思いに至るのか聞いてみたいと思った。

14時からスクリーニングの午後の部が始まるため、常設展は後日見ることにして講堂に向かう。スクリーニングは朝10時から始まり、お昼に2時間ほど休憩を挟んで、午後5時まで上映されている。プログラムがかなりハードコアで驚いたので、タイムスケジュールを以下に貼り付けてみる。

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3月10日(日)

10時10分-  さわひらき《sleeping machine 2.》2011, 5’37” *

10時15分-  ムン・キョンウォン&チョン・ジュンホ《妙高山館》2014, 22’09” *

10時40分-  mamoru《this voice a place all that is resonating 》9’31”

10時50分-  mamoru《Further》2013, 10’11” 

11時00分-  SHIMURAbros 《EICON Safety Last》2017, 8’00” 

11時10分-  ヴァジコ・チャッキアーニ《Winter which was not there》2017, 10’40” *

11時20分-  小泉明郎《Birth of Tragedy》2013, 17’30” *

14時00分-   山本高之《Facing the Unknow》2013, 13’59” 

14時15分-   クゥアイ・サムナン《Enjoy My Sand》2013-2015, 10’52” *

14時25分-   田口行弘《discuvry》2013-2014, 46’00” 

15時30分-   ポール・マッカーシー《Painter》1995, 50’01” *

16時30分-   ミヤギフトシ《The Ocean View Resort》2013, 19’25” *

※*印はタグチアートコレクション蔵

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こんなに豪華なラインナップのスクリーニングが無料であるということが驚きである。

見たことのある作品もあったけれど、どれも面白いので真剣に見たら、上映後どっと疲れた。約3時間じっと座って映像作品を見たのだ。3時間の映画を見るのはそれほど大変でもないけれど、3時間アートの映像作品を観るのはなかなか体力が必要だった。観終わった後に考えたのは、ふだん自分が見ているものって意外とトレンドに左右されているんだな、ということである。ポール・マッカーシーの映像作品を見て特にそう思った。こういう作品を久しぶりに見た!という感じだ。スランプに陥った抽象表現主義の画家が発狂して「もう無理、もうたくさんだ、こんなことできない」と呟きながらスタジオで絵の具まみれになりながら制作しているという作品。ギャラリストに「金払え、僕がもらえるはずの金をまだ渡してないはずだ」と吠え立てて、壁にかけてあった他のアーティストの作品を破壊するシーンが笑えた。笑えるけども同時にアーティストの悲哀も感じるのがこの作品の良いところだ。

ロビーで映像作家のSさんと奥様のTさんにばったりお会いした。Sさんご夫妻も数年前に鳥取に移住してこられたそうで、Tさんがホスピテイルのアーティストトークに来てくださったことでSさんのお話しになり、滞在中にお会いできるチャンスがあると良いなと話していたところだったのだ。Sさんご夫妻と赤井さんと私の4人で、赤井さんおすすめの美味しいカレー屋さんでディナーをし、そのあとカフェで夜の11時すぎまでアートのこと、映画のこと、ネットフリックスの面白いドラマのこと、鳥取での生活についてなどたくさんお話をした。Sさんの作品を拝見したことがあってずっと気になっていたし、最近共通の友人からよくお名前を伺っていたのでいつかお会いしたいとは思っていたけれど、このような形でお会いすることができるとは思っていなかったので縁とは不思議なものである。