今年一年は、新型コロナウィルスによって社会も生活も変わらざる得ない状況となり、暮らしにおいてもオンライン・デジタル化が加速したように感じます。今回は、パーソナルな記録物の潜在的価値を探求する、「AHA(アハ)!」というアーカイヴ・メディアの取り組みの世話人を務められている松本篤さんをお招きし、活動で変化したことや最近考えていることなどをざっくばらんにお話しいただくことで、メディアから見る社会の変化に注目します。
「すみおれアーカイヴス」で連携しているAHAの松本さんに、コロナ禍となった現在、考えていることや模索しながら取り組んでいることを「コロナ禍におけり文化事業の継続とは?」というテーマで話していただきました。
「声の集め方、届け方」をより今にあった形で継続できるのか。
そもそも一般的な「アーカイヴ」とは、「記録を保存すること」。「保存された資料群」「保存する場所のこと」を一般的な意味としていますが、AHAはこれまで、「保存する」方法をちょっと違ったアプローチで実践してきました。
市井の人びとが記録した8ミリフィルムを集めて、公開鑑賞会や展覧会にしたり、上野動物園のぞうのはな子の写真を集めて書籍にしたり、「市井の人々の声(記憶)をいかに集め、届けるか」を思考し、これまで取り組んできました。しかし、これらは協力してくださる方との「対面」を前提とした取り組みでした。
コロナ禍となった今、予定していた二つの展覧会の中止、複数の進行中のプロジェクトが中断となり、今までどおりのやり方では通用しなくなったことを実感したそうです。
「対面/非対面」を捉え直す。
人と人が同じ空間軸で語らうことができなくなった現在の課題を直面して、現在取り組んでいる2つの事例についてお話いただきました。一つ目は、東京都による芸術文化を活用した被災地支援事業が運営するwebサイト「ART SUPPORT TOHOKU-TOKYO2011→2021」で連載している「復興カメラ 今月の一枚」は、岩手県釜石市と大槌町を中心に被災と復興のプロセスを住人みずらかが記録するプロジェクト「復興カメラ」を展開したもので、「今月の一枚」はオンラインで松本さんが聞き手となって、記録された現在の写真と10年前のそれを見比べながら、それぞれの記憶にフォーカスしていく試みです。オンラインで改めて取材をすることで活動メンバーのプライベートな記憶を聞くことができ、現在とこれまでを点で結ぶような語りになったそうです。
また、「世田谷クロニクルポストムービー」は、東京・世田谷にある世田谷文化生活情報センター「生活工房」で行われた取り組みで、展覧会「世田谷クロニクル1936-83」が中止となり、発展させたプログラムです。集まった8ミリフィルムの1シーンをポストカードにし、裏面にその映像の解説(フィルム提供者の記憶)が手書きされています。展覧会場には、そのポストカードが複数展示されていて、手にとって読むことができます。
その他にも、これまでは定期的にあつまって映像の目録づくりをしていた「赤かぶの会」のメンバーとも集まることができなくなったため、あるテーマにして手紙を集め、フリーペーパーにするなど、対面で交流していた場を、非対面にシフトしました。
コロナ禍になっても、AHA!のコアは変わらない。
AHA!がこれまで行ってきた、メディアや集まる場所をつくることによって、他者が入る余地のない小さい声に入り込むことは、そもそもの「アーカイヴ」の考え方そのものだと再認識した松本さんのお話をきいて、改めて松本さんは、「アーカイヴづくり」に興味があるんだなと思いました。状況が変わって、対面になっても、非対面になっても、アーカイヴをつくることに注視すれば、自ずとやるべきことが見えてくるような気がしました。
また、非対面にしたオンラインや手紙のやりとりは、これまでのAHA!的アーカイヴを通じた信頼関係があるから成立することであり、その関係性こそがコロナ禍によって再発見できたのだと思いました。非対面での、今まで出会ってきたAHA!の魅力を知る人たちに寄せたアプローチをする姿勢をみて、コロナ禍となって、新しい生活となった今、新しいお客さんに向けて何かを始めなくても、今まで大事にしてきた足もとを見つめ、これまで関わってきた人たちに向けて何ができるかを考えることも、大事なことだと思いました。
(じゃたにりえ)