今日は鳥取駅から電車で40分くらいの場所にある松崎というところに行った。松崎には、ユニークな移住者のコミュニティが形成されていると聞いていた。その中心的な役割を担っているのがアーティストたちが始めたゲストハウスたみで、たみに集まったいろんな人たちも次第に松崎に移住してきて、今では周辺にセンスの良い本屋、古着屋、カフェができている。ホスピテイルでのアーティストトークのときにセッティングをしてくださったJさんは、実はたみの創始者のうちの1人で、鳥取のアートコミュニティはみんなゆるく繋がっているようだ。たみの姉妹店として市内にできたYというゲストハウスで、もう1人の創始者Mさんにも初日にお会いしていた。(初日の夜にことめやの鍵を忘れてあやうく中に入れない、という状況のとき、初対面のMさんに助けていただいたのだ・・・)今日はJさんもMさんもたみにいらっしゃるということだったので、訪ねることにしたのだった。

たみの平日の営業時間は7時~10時、18時~22時である。アポなしで、しかも松崎駅に着いたのが14時くらいだったので誰にも会えないだろうとは思ったけれど、とりあえずたみに行ってみた。たみは駅から徒歩3分くらいの場所にあった。軒先に錆びた金属ボルトを何本か組み合わせた立体的なモビールのようなオブジェが吊るしてあり、あるポイントから見ると「たみ」の印象的なロゴになっている。素敵な看板だ。

たみにはひとつルールがあり、内部の撮影は禁止である。ということで写真はないので、みなさんぜひ行ってみてください。

玄関に入り、「すいませーん」と呟いてみたけれど、予想していた通り冬休みの小学校の校舎のような静けさである。18時まで周辺を散策することにし、まずは汽水空港という本屋さんに行ってみた。汽水空港はたみから歩いて数分の場所にあって、こちらも建物や内装がとても魅力的だった。たぶん自分たちでリノベーションしたのだと思うが、ドアやドアの取っ手、窓、看板、すべて手作りの温もりがあって、この建物自体が彫刻作品のようでさえあった。そしてざっと見た感じ本のラインナップが素晴らしかったので、これは腰を据えてディグらなくてはと覚悟した。バックパックを足に挟みつつカニのようにノロノロと横にずれて行く私を見かねて、店番をされていたオーナーのパートナーである女性の方が荷物を預かりましょうか?と話しかけてくれた。お言葉に甘えて荷物を預かってもらい、本気モードで目を走らせて行く。芸術、音楽、建築、映画、文学、評論のラインナップがとても充実していて、いわゆるビジネス書や新書系は見当たらない。このラインナップで、この場所で、どうやって成り立っているのか不思議だった。東京に汽水空港があったら絶対に通う、というくらい素敵な場所だった。私がもくもくと探索している間に3人くらいの人がやってきて、1人は予約をしていたのか本を受け取りにきて数千円の支払いをしていたので、本好きは遠くからでも車に乗ってやってくるのかもしれない。なんとか5冊にしぼりこんで、購入して非常な満足感を覚えた。お店の方が、奥の離れでグループ展をやっているのでぜひ見ていってください、と教えてくれた。離れはオーナーさんが最初にここに移り住んだときに自分で作った小屋なのだという。その小屋はこじんまりとしているけれど、やはり手作りの温かみのある建物だった(温かみのある見た目ではあるけれど、断熱材などは入っていないので住むのはすごく寒いとも思う)。昨日博物館のスクリーニングのプログラムにあった田口行弘さんの『discuvry』という映像作品を思い出した。この映像はドイツの空地に若者たちが廃材で小屋を立てて、そこにコミュニティが生まれていく様子をコマ取りで追っていく作品である。そういえば、汽水空港のラインナップには坂口恭平さん、藤森照信さん、バックミンスター・フラーさんなどオルタナティブな思想を持つ建築家の本がたくさんあった。また世界中のタイニーハウスの写真集もあった。このような建築的な思想を背景に松崎のコミュニティが生まれたのだろうか、と勝手に想像を巡らせる。

お店の方にお礼を言って、古着屋さんのある方向を聞くと、今日はお休みだという。残念。この流れでいくと、古着屋さんのセレクトも間違いなさそうなので次回は必ず行ってみたい。18時まで時間があったので、HAKUSENというカフェで買ったばかりの本を読むことにした。HAKUSENも汽水空港から徒歩数分の場所にある。東郷池の湖畔に突き出すように建てられていて、遊覧船の待合所のような遊覧船そのもののような不思議な外観だった。店内は湖に面した2面が大きなガラス張りで、景色がすばらしい。そしてコーヒーもチョコレートケーキも丁寧で上品な味わいだった。しばらく制作のためのメモを作成したあと、ペドロ・コスタの映画論講義を読む。この本が新作への良いインスピレーションになりそうだった。18時前にHAKUSENをあとにし、たみに向かう。玄関を開けてみるとさっきHAKUSENでコーヒーをテイクアウトしていた女性がいて、「地主さん、さっきHAKUSENにいましたよね?」と声をかけてくれた。彼女とは実は初日にYですでに会っていたのだが、私は初日で緊張していたのと薄暗い中で挨拶をしただけだったので気がつかなかったのだ。彼女は日によって、たみで働く日とYで働く日があって、今日はたみの日なのだそうだ。今手持ち無沙汰だから、中を案内しますよ、と言ってゲストハウスの館内を見せてくれた。ゲストハウスには男女別のドミトリーと個室があって、ドミトリーの部屋もベッドの間隔がゆったりとられていて居心地が良さそうだった。大きなキッチンの奥にある庭に真っ白い大きな犬がいた。Jさんが飼っている秋田犬で、おとうさんという名前なのだと教わった。こんにちはと挨拶したら、挨拶を返してくれて、とても気の優しい人懐こい犬だった。カフェに戻ると、お客さんのチェックインなどで忙しかったJさんがやってきて、その後Mさんも来て、今日初めて来たというお客さんや、カフェに呑みにきている常連さんらしい人などと一緒にお話しした。私がふだん東京にいるときによく行っている吉祥寺のアートセンターオンゴーイングと近い雰囲気があって、居心地が良かった。ハートランドビールを半分ほど残したまま電車の時間が来てしまったので、初めて会った人に「もし良かったら残りのビール飲んでください」(もちろん口はつけてないです)という不躾かもしれない申し出をしたら快く受け取ってくれたので、ありがたく思う。また遊びに来ます!とみんなに挨拶をして、松崎駅に向かった。次回はたみに宿泊して、松崎でゆっくり時間を過ごしてみたいと思った。

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