今日は、7月19日に行われたアフター・トークの内容についてレポートしたいと思います。今回の滞在で制作された新作の名前は、《亡霊パヴィリオンのみやげ》です。ピル&ガリア・コレクティヴは、この作品でモダニズムの中に見られる「諦められてしまった、実現しなかった未来」を亡霊のようなものとして表現することを試みました。

このプロジェクトは、キュレーターの中西さんがピル&ガリア・コレクティヴがモダニズムをテーマに作品を制作していることに興味を持ち、声をかけたことから始まったそうです。今回のプロジェクトは、日本におけるモダニズムのあり方をリサーチすることから始まりました。アフター・トークでは主に、そうしたリサーチを通してピルとガリアが考えたこと、そしてこの作品を制作するに至った経緯に関する話を伺うことができました。

0S9A0071リサーチにおいては、ヨーロッパの多くの作家たちが日本文化に影響を受けていたこと、特にモダニズムの作家たちがヨーロッパの伝統に反逆するために日本の美術を用いていたことに気づいたと述べていました。例えば当時、浮世絵に影響を受けたゴッホの絵画をはじめとする美術をはじめ、音楽、演劇など様々な芸術分野でその影響が見られました。しかし、ピルとガリアはこれがむしろ日本の芸術家がモダニズムに参加することを難しくしたと考えています。モダニズムの追求により、自らの文化の過去を振り返るという後退的な側面が出てきてしまうためです。

さらに、彼らは日本の美術家がどんなことをしていたかを調べる中で「マヴォ」という前衛芸術集団の仕事に出会いました。はじめ、ピルとガリアはヨーロッパとほぼ同時期にほぼ同じようなモダニズムを追求していたマヴォに興味を持ちました。アートと生活の境を無くそうとしていたマヴォの活動は、当時、アヴァンギャルドな行為でした。しかし、ピルとガリアは、あらゆる場面で創造性が求められ、仕事がアートに近づいていくような現代社会の中で、マヴォを再現することはあまり意味がないのではないかという結論に至りました。今だからこそやる意味のあるものはないかを考え、調べていた時に、第二次大戦後の時代の「実験工房」という芸術集団の仕事に出会ったそうです。

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ピルとガリアは、実験工房がファシズムを経た日本において、伝統を再活性化しようとした人たちだと考えています。それは未来を考える行為だったと同時に、同時代にヨーロッパで行われていたことと並行するような活動でした。特にピルとガリアが興味を持ったのは、実験工房が能を再活性化、再解釈しようとした取り組みです。実験工房は、1950年代の舞台作品《月に憑かれたピエロ》で能役者の観世寿夫と共に上演を行い、この作品に能の歌唱法と似ているドイツの作曲家であるシェーンベルクのオペラで用いられたシュプレヒゲザング(Schprechgesang)の要素も取り入れました。ピルとガリアは、異文化が交差するようなこの作品が初期のモダニズムやジャポニズムとも違う点に興味を惹かれ、本作の舞台の背景にこの作品で使われていた舞台装置から引用したものを設置しました。

さらに実験工房の活動を調べていく中で、2016年に初めて訪れた大阪の万博記念公園を思い出したと述べていました。彼らはそこで見た、万博の頃に未来を想像して造られたパヴィリオンが立ち並ぶ奇妙な風景にとても驚いたそうです。そこから彼らは、1970年の万博が楽観主義のピークに達した瞬間だったのではないかと考えました。これは70年代の国際社会全般に言えることなのですが、特に日本で強烈に見られたように感じたそうです。

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この万博は、当時史上最多の来場者を記録し、成功を収めたと言われています。その一方で、ピルとガリアは「人類の進歩と調和」という万博の標語が、その当時ですら空疎なものであったのではないかという考えに至りました。1970年という年を考えると、このようなお祭り騒ぎがあった一方でベトナム戦争があったり、アメリカの保守的なニクソンがホワイトハウスを仕切っていたり、中国では文化革命が進行していたり、ヨルダンではブラック・セプテンバーと呼ばれる内戦が起きたりしていました。外に目を向けてみると、危機的な状況があちこちで起きていたのです。ピルとガリアは、この万博のパヴィリオンが象徴しているようなテクノロジーに対する非常に楽観的な考え方と、世界を覆っていた暗い権力のギャップを面白いと感じたそうです。

万博のパヴィリオンには、国を代表したパヴィリオンと、ペプシやパナソニックなどの企業が出しているパヴィリオンがありました。ソ連やアメリカのパヴィリオンで、国家的なプロジェクトである宇宙計画に関する展示がされていた一方で、ペプシなどの会社のパヴィリオンではアートやテクノロジーを用いた革新的な展示が試みられていました。ピルとガリアは、世界が迎える未来には国家と商品の周囲で作り上げられるたった一つの未来の姿しかないということを、国家と企業のパヴィリオンが表現していたと考えています。

0S9A9907ペプシが作った大阪万博ペプシ館では、E.A.T.という最先端の芸術家集団が聴覚と視覚を刺激する、体験的なアートの空間を作ることを試みました。この建物は「非物質的な建築」がテーマになっており、霧の彫刻で覆われ、中はミラー構造になっていました。今回の作品の亡霊は、このペプシ館にインスピレーションを受けています。また、パナソニックは万博に際してタイムカプセルを作るというプロジェクトを行いました。当時、2つのタイムカプセルが埋められ、一つは2000年に掘り返され、もう一つはまだ埋まったままになっています。タイムカプセルの中身は、当時のもので何が一番重要か、5000年後の歴史家が見たときに何に興味を持つのかということを考えて選定されました。また、伝統と最新のテクノロジーのバランスをとることが重要視され、マイクロチップや科学論文から子供の描いた絵、着物の様な伝統的なものまで含まれました。

ピルとガリアは、これを見た時もまた楽観主義を感じたそうです。彼らは、これらの品物が戦後のモダニズムの真実を表していると考えました。タイムカプセルの中身には、組み立てたり、パッケージをしたり、仕分けたりすることに特化したテクノロジー、そしてプラスチックという材質を用いたものが多く見られます。当時、人々はこれらのものを通して、よき世界を表現していました。ですが、この万博の時に見られたような、物を所有することによってより良い世界が作られるというような感覚は、1970年以来失われてしまいました。

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1970年代まで、人々は自分たちの生活がより良い、心地良いものになる、より平等に近づいていくと感じることができていたのですが、現代では日本のGDPと政府の負債のグラフからも分かるように、生産性が負債や借金に取って代わっています。現在、先進国の各国で資本主義の生産性がどんどん落ちています。ピルとガリアはこのような現在の状況を観察する中で、今の時代は「負の商品の時代」と言えるのではないかと考えました。例えば、ガリアにとって、子供の頃は飛行機で旅行することは非常にワクワクするような贅沢な体験でした。しかし、それが今ではeasy jetのような格安航空に取って代わっています。人々は安い航空券を買う代わりに、何か少しでも飲みたい、食べたい、バッグを増やしたいと思ったら追加料金を請求されます。

また、スマートフォンに搭載されたスクリーンタイムを制限するような機能も負の商品の例として挙げられました。「この商品を買ってください。ですがこの商品はこの商品を使うのを制限するものです」とPRするという非常に奇妙な現象が現実に起こっています。昔の商品といえば、例えば車を買うことで様々な場所に自由に行ける、自由を得られる、というものでした。ですが、ピルとガリアは現在の商品は、あるものから自由になること(free from)を売っていると考えています。例えば、イギリスでは現在「何かが入っていません(something-free)」という商品を売っているスーパーが人気を博しているそうです。例えばアルコールフリー、脂肪フリー、乳製品フリー、グルテンフリーをうたう商品が売られており、人々はまるで自身を嫌っているような商品を買わされているという経験をしています。ピルとガリアは、以上で述べたような例で挙げられる商品を負の商品(negative commodity)と呼んでいるのですが、欲望を取り除くような体験を売りつけるのが現在の資本主義の形だと考えています。

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ピルとガリアは、こうしたポスト消費社会を扱うに当たり、能という芸術がとても相応しいと考えました。能の曲にはよく亡霊、幽霊といったものが登場するのですが、高僧などの権威を持った霊的な存在が聞き役になって亡霊と対話するというような構造がよく見られます。亡霊は、自分のトラウマやある出来事によってある世界に閉じ込められてしまって成仏できないような状態にあります。この背景には、欲望からの解放という哲学的な宗教的なテーマがあり、その亡霊のキャラクターがもう自分の属していない世界に結び付けられているという状態がよく見られるのをピルとガリアは面白いと感じたそうです。今回の新作では、1970年当時にそのピークにあったような魅力的な商品や、それに刺激される欲望といったものが、現在の私たちにまだつきまとう亡霊、成仏させなければいけない亡霊として表現されています。

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作品の裏側には、このような制作のプロセス、背景があったことがわかり、より作品を深く理解することができたと思います。展示は8月6日までです!

ピル&ガリア・コレクティヴ「(In)visible Propaganda /(不)可視のプロパガンダ」
会期:2019年7月19日(金)〜8月6日(火) ※水・木は休館
開場時間:13:00-18:00 入場無料
入場無料

Photo: 田中良子
(小田部)